― 2025年9月の台風15号を経て ―

2025年9月、台風15号が静岡県を含む日本各地を通過しました。
この台風は強い風を伴い、ペットメモリアル ドマーニのある牧之原市の一部地域、近隣の吉田町、焼津市等では竜巻による被害も報告されました。
屋根やカーポートが飛ばされ、停電が数日続いた地域もあり、いまだに屋根のない家が軒を並べている状態です。(2025年10月現在)
中には車に乗車中の方が、竜巻によって車が持ち上げられ横転してしまった結果、亡くなるといった痛ましい事故も発生しております。
その中で私のもとには、停電の影響で熱帯魚が死んでしまい、火葬を考えていると相談が寄せられました。
「電源がないと生きられないペット」という存在がいることを改めて実感させられる出来事でした。

犬や猫のように、ある程度は飼い主と一緒に避難行動をとれる動物もいます。
しかし、熱帯魚や爬虫類など、環境そのものが生命維持に直結している生き物たちは、停電ひとつで命を落とす危険があります。
特に熱帯魚は、エアポンプによる酸素の供給、ヒーターによる水温の維持、フィルターによる水の循環、そして照明による生体リズムの安定など、すべてが電気に依存しています。
電気が止まるということは、そのすべての仕組みが一度に失われるということです。

電気に頼る命を守るということ

私たち人間は、停電すれば懐中電灯を点けたり、モバイルバッテリーで携帯を充電したり、不便を我慢して過ごすことができます。
しかし、熱帯魚や爬虫類はその間に呼吸ができなくなったり、体温を保てなくなったりして、命に関わる事態に陥ります。
熱帯地域の魚たちは水温が数度下がるだけでも体調を崩し、冬場の低温ではわずか数時間で動かなくなってしまうこともあります。
夏場は逆に、エアコンや水槽クーラーが止まることで酸素量が急激に減り、水温が上がりすぎてしまうことがあります。
人間が感じる「少しの暑さ」や「少しの寒さ」でも、彼らにとっては生死を分ける温度差なのです。

災害時に起こるのは、電気だけの問題ではありません。
強風によるガラスの破損で水槽が倒れたり、雨漏りや浸水で機器が壊れたりすることもあります。
火災や停電でブレーカーを落とさなければならない場合もあり、そうした状況で「いつも通りの環境」を保つことは不可能です。
つまり、災害に対して備えるというのは、人間の生活だけでなく、ペットたちが暮らす環境そのものを守るという意味でもあるのです。

犬や猫にできる備え

まず、犬や猫と暮らすご家庭では、避難を想定した備えをしておくことが大切です。
災害時に焦って逃げ出すと、首輪が外れたり、リードが切れたりして迷子になってしまうことがあります。
首輪には必ず連絡先を記載し、引っ越しなどした場合などはマイクロチップの登録情報も最新にしておきましょう。
また、避難所に同行できる場合でも、キャリーケースやケージに慣れていないと、ストレスで鳴き続けたり暴れたりすることがあります。
普段から短時間でもキャリーに入る練習をしておくと、いざというときに落ち着いて行動できます。

非常持ち出し袋の中には、フードと飲料水、ペットシーツ、常用薬、タオル、ビニール袋、そしてペットの写真を入れておくと良いでしょう。
写真があることで、迷子になった際に特徴を伝えやすくなります。
さらに、普段通っている動物病院の連絡先をメモしておくと、被災地以外で診察が必要になったときにも役立ちます。

電源が必要なペットへの備え

次に、電源を必要とするペットたちの備えについて考えてみましょう。
停電が起こると、水槽のろ過装置やヒーター、エアポンプ、照明などがすべて止まります。
水中の酸素は急速に減り、アンモニアが分解されずにたまっていきます。
魚は酸素を求めて水面に集まりますが、それも数時間しかもちません。

このような事態を防ぐために、バッテリー式のエアポンプを準備しておくことをおすすめします。
乾電池やUSB充電式のものも市販されており、短時間の停電なら十分に対応できます。
また、車から電源を取れるインバーターを備えておけば、ポータブル電源の代わりとして使うことも可能です。
一方で、ヒーターやクーラーのような高出力機器を長時間動かすのは現実的ではありません。
そのため、水槽を毛布や断熱シートで包み、外気温の影響を少しでも抑えるなど、簡単な工夫を覚えておくと良いでしょう。

爬虫類や両生類を飼っている場合も同様です。
彼らは自分で体温を調整できないため、冬の停電時には保温が最も重要になります。
使い捨てカイロや湯たんぽをケージの外側に置いたり、段ボールで囲って保温するなど、応急的な方法を考えておきましょう。
夏場であれば、直射日光が入らない場所に移動させ、通風を確保するだけでも熱中症の危険を減らせます。

家の中の危険を見直す

災害時、ペットを守るためには「家の中の危険」を減らすことも欠かせません。
水槽やケージを高い位置に置くと転倒の危険があり、逆に床に直置きすると浸水の際に被害を受けやすくなります。
安定した棚の中段など、倒れにくく安全な位置を選ぶことが大切ですし、すぐ動かせるものだったりすれば、災害時に家の中でも場所を変えることも必要になってきます。
また、ガラス水槽は強風で飛んだ物が当たって割れる可能性もあります。
台風や竜巻の恐れがあるときは、厚手の布や毛布で覆うことで、飛散の危険を少しでも減らすことができます。

停電が長引くと、室内の温度や湿度も急速に変化します。
夏場の静岡では、外気温が30度を超えることも多く、エアコンなしでは数時間で室温が35度以上に上がることもあります。
逆に冬場は、夜間の冷え込みで水槽の水温が10度台まで下がることもあります。
普段の生活の中で、エアコンを止めた状態の室温変化を確認しておくと、どのくらいの時間で危険な温度になるかを知ることができます。

まさかの事態に備えるということ

2025年の台風15号では、静岡県でも竜巻注意情報が発表され、多くの人が「まさか自分の地域で竜巻が起きるとは思わなかった」と話していました。
けれども、その“まさか”の中で命を落としたペットがいたことを、私たちは忘れてはいけません。
災害はいつ起こるかわかりません。
自宅の電源が止まることも、避難が必要になることも、実際に経験して初めて現実味を帯びます。
大切なのは、起こる前に備えることです。
発電機やポータブル電源を一台持っておく、キャリーを手の届く場所に置いておく、食料や水を多めに用意しておく。
そうした小さな積み重ねが、いざというときに大きな違いを生みます。

命を守るための準備を日常に

ペットとの暮らしは、日々の安心の上に成り立っています。
災害が起こってから「どうしよう」と考えるのではなく、普段から「もし停電したら」「もし避難することになったら」と想像しておくことで、取るべき行動が変わります。
特に、電源を必要とするペットと暮らすご家庭では、日頃から設備のチェックや非常電源の準備を意識しておくことが大切です。
停電が長引けば、その命が守れなくなるかもしれません。

どんな状況でも、ペットの命を守ることができるように。
台風や地震といった自然災害は避けられませんが、その被害を最小限にすることはできます。
ポータブル電源など、お金がかかることもありますが、まずはご家庭の中でできることを、もう一度見直してみてください。
それが、ペットと共に生きる私たちに課せられた責任ではないでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です