
最近、ペットにも「エンバーミング(遺体衛生保全処置)」という言葉を耳にするようになりました。人の葬儀では比較的知られている技術ですが、近年は動物にも応用されはじめており、関心を持つ方も増えています。一方で、「そこまで必要なのだろうか」「薬剤を使うのは抵抗がある」という声も少なくありません。
ペットメモリアル ドマーニでは、現段階においてペットへのエンバーミングは必ずしも必要ではないと考えています。その理由を、文化の背景と実際の現場からの視点を交えてお伝えします。
エンバーミングとは

エンバーミングは、血管から防腐剤を注入し、血液を薬剤と入れ替えることで腐敗の進行を遅らせ、見た目の変化を抑える処置です。体内の環境を一定に保つことで、数日から数週間のあいだ外見を保てるようにするものです。海外では専門資格を持つ技師によって行われ、人の葬儀においては長期間の安置や海外搬送などの際に用いられます。
見た目を保ち、長くお別れの時間を取れるという点で一定の効果がありますが、その本来の目的は「衛生的にする」ことではなく、「腐敗を遅らせること」にあります。つまり、生前の姿を保ちたいという思いに応えるための一時的な処置です。
欧米と日本の葬送文化の違い

エンバーミングは、欧米の葬送文化の中で発展してきた技術です。欧米の国々では葬儀のあとに土葬を行うため、埋葬までの準備や手続きに時間がかかります。その期間が1週間から、長い場合では1カ月に及ぶこともあります。その間、腐敗を防ぎ、遺族が最後まで故人と向き合えるようにするために、血液を薬剤と入れ替えて体の状態を保つ技術として発展しました。
一方、日本では火葬が主流です。亡くなってから葬儀・火葬までの期間は2~3日以内が一般的で、長期の安置を前提としていません。清潔な環境を整え、エアコンや保冷剤を使えば、遺体の傷みが少ない状態でお見送りができます。
このように、もともと土葬の文化の中で発展したエンバーミングは、火葬を主とする日本の文化には根本的に合いにくいといえます。ペットの場合も、火葬までの期間はさまざまで、すぐにお見送りをされるご家族様もいれば、少し時間を置いて心を整えたいというご家族様もいます。それでも、エアコンや保冷剤などを使えば、薬剤による処置を行わなくても十分に遺体の傷みを抑えて安置できます。
ペットちゃんにまで施す必要があるのか
ペットへのエンバーミングは、人間と同じく血液を薬剤と入れ替える方法で行われます。確かに、一時的に見た目を保ちやすくなるという利点はありますが、費用は安くありません。
なお、ペットメモリアル ドマーニでは、これまでにエンバーミングを施したご遺体を取り扱ったことはありません。そのため、実際の燃え方や煙の出方、匂いなどについては未知な部分があります。防腐剤にはさまざまな種類があり、化学的な性質によっては燃焼時の影響が変わる可能性も考えられます。この点は、今後の検証や事例の蓄積を待つ必要があります。
これまで多くのペットちゃんのお見送りをお手伝いするなかで、保冷剤やドライアイスで冷やすことさえも、かわいそうだと感じるご家族様もいらっしゃいます。そのお気持ちはよく理解できます。それだけに、血液を薬剤と入れ替えるような処置をペットちゃんに施すことは、多くのご家族様にとって受け入れがたいことだと思います。
日本では火葬が主流であり、亡くなってから荼毘に付すまでの期間は一般的にそれほど長くありません。そのため、体を薬剤で保つ必要はなく、エアコンや保冷剤で室温を管理すれば、きれいな姿のままでお見送りができます。大切なのは見た目を保つことではなく、最期までそばにいてあげる時間です。
火葬文化の中での「自然な見送り」

火葬には、「遺体を焼いて骨を葬る」という直接的な意味のほかに、「仏教的な教えに基づき、故人の魂を次の世界へ送る」という文化的・精神的な意味合いがあります。日本では古くから、火を通して肉体を清め、魂を送り出すという考えが根づいてきました。
そのため、薬剤で姿を保つことよりも、ありのままの姿で送り出すことの方が、火葬という行為の意味にも文化的な流れにも合っているといえます。
また、亡くなってから長く置いてしまうことで、手放すきっかけを失い、かえってつらい気持ちが長く続いてしまうこともあります。ペットちゃんの安らかな旅立ちを願い、天国へ送り出してあげることが、ご家族様にとっても心の整理につながるのではないでしょうか。
エンバーミングによって見た目を整えることも一つの選択肢ですが、ペットちゃんにとって本当に必要なことは「きれいに保つこと」ではなく、「最後まで寄り添ってもらうこと」だと思います。化学的な処置を施すよりも、清潔な環境を保ち、自然に還してあげる方が、より穏やかでやさしいお別れになるのではないでしょうか。
お別れの時間を大切に
お別れのかたちはご家庭によってさまざまです。どのような方法を選ばれても、ペットちゃんとの時間をゆっくり過ごし、最後に「ありがとう」と声をかけてあげることが、ペットちゃんにとっても、ご家族様にとっても、何よりのやすらぎになると思います。
ペットメモリアル ドマーニでは、静岡県の志太・榛原・南遠を中心にご自宅や思い出の場所でのお見送りをお手伝いしています。慌ただしい準備の中でも、ご家族様が落ち着いてお別れの時間を過ごせるように丁寧にご案内し、ペットちゃんの旅立ちがやさしい時間となるよう、心を込めてお手伝いしております。



