はじめに

ペットの火葬についてご相談を受けると、必ずといっていいほど聞かれるのが「煙や匂いは出ますか?」という質問です。火を扱う以上当然の不安であり、特に移動火葬車の場合はご自宅や思い出の場所で火葬を行うため、近隣への影響を心配されるご家族も多くいらっしゃいます。

私が心がけているのは「正直にお伝えすること」です。煙や匂いは条件によって出ることがありますが、まったく出ない場合もあります。その違いをできるだけ分かりやすく説明し、ご家族に納得していただいたうえで火葬を進めることが大切だと考えています。

なお、このあと燃焼の仕組みを説明するために「可燃物」「燃料」といった理科的な言葉を用いる場面があります。もちろん、大切なペットちゃんをそのように呼ぶつもりはありません。あくまで仕組みを伝えるための便宜的な表現ですので、その点はどうかご理解ください。

「煙が出ない」という宣伝について

一部の火葬業者のホームページなどで「煙が出ない火葬炉」と表現されているのを目にすることがあります。しかし、これは注意が必要です。現代の火葬炉は二次燃焼バーナーを備えており、煙を極力抑える仕組みになっています。けれども「絶対に出ない」とは言えません。

燃焼には「燃焼の三要素」と呼ばれる条件が必要です。

  • 可燃物(燃えるもの)…火葬ではご遺体そのもの、特に脂肪や被毛。
  • 酸素供給源(燃焼を助けるもの)…通常は空気中の酸素で、火葬炉ではブロワーが安定供給。
  • 熱源(点火源)…火葬炉の一次バーナーの火。

この三要素が揃って燃焼は成り立ちます。ところが、大型犬や脂肪の多い子では、一時的に可燃ガスの発生が非常に多くなり、炉の処理能力を超えることがあります。そのとき、二次燃焼でも追いつかず、未燃焼ガスが煙となって目に見えるのです。

つまり「絶対に煙が出ない」という表現は現実にそぐわないのです。重要なのは「できる限り出にくいように工夫されている」こと。そして私はそのことを正直にお伝えしています。

匂いについて

火葬で最も匂いを感じやすいのは点火直後です。一次バーナーで運転が始まるこの段階では、毛が燃えるときに独特の焦げた匂いが一瞬だけ漂います。人の髪をライターで炙ったときの匂いと同じで、毛に含まれるたんぱく質が燃えることで立ちのぼる匂いです。

ただし、この毛の匂いが収まってしまえば、その後に強い匂いを感じることはありません。火葬炉はブロワーによる強制排気で常に負圧に保たれており、匂いが炉内から漏れ出すことはないためです。実際には、この毛の匂いをまったく感じないご家族もいらっしゃいます。

また、大型犬や脂肪の多い子では燃焼の過程で煙が出る場合があり、もしその煙が強風にあおられて地面に吹き降りてしまうと、多少の匂いを感じることがあります。これはあくまで風向きや気象条件によるものです。

ご遺体の大きさと煙の出やすさ

煙の出やすさを左右するのは、ご遺体の大きさや体格です。小型犬や猫といった体格の小さな子であれば、燃焼が安定し、煙が出ることはほとんどありません。可燃物の量が少ないため、発生するガスも炉の処理能力の範囲に収まりやすいのです。

一方で、大型犬や体脂肪の多い子では状況が異なります。可燃物の量が多いため、燃焼初期に発生するガスが一気に増え、一次燃焼だけでは処理しきれず、煙が出やすくなります。特にゴールデン・レトリバーやラブラドール・レトリバーといった犬種は煙が出やすい代表例です。

また、食事内容によっても脂の性質が変わるように思います。私の経験上、ペットフード中心の子は脂がサラサラしており、燃えるときは一気に炎が立ちやすい印象です。反対に、人間の食事を日常的にねだっていた子は脂が粘度を持ち、じわじわと燃えるため、煙が長引きやすい傾向があるように感じます。

煙が出にくい火葬炉の条件

火葬炉の性能は、単にバーナーの強さや二次燃焼の有無だけで決まるものではありません。実は「燃焼室の大きさ」が非常に大きな影響を与えます。燃焼室が広ければ炎とガスが十分に混ざる燃焼スペースが確保され、未燃焼のガスがしっかり燃えきります。そのため煙が出にくいのです。

ご家族から伺ったお話では、以前に軽トラックや軽の箱バンに積まれた小さな炉で火葬したときには煙が多かった、という声をよく耳にします。それに比べて、大きな車に積まれた燃焼室の広い炉では煙が出にくく、落ち着いた火葬ができたと驚かれることがあります。私自身はこの炉しか使ったことがありませんが、こうしたご家族のお話を通しても「燃焼室の広さ」が煙の出やすさに影響していると実感しています。

煙の正体と二次燃焼

煙の正体は「燃え残った燃料」です。理科の授業で、消したろうそくにマッチを近づけると煙から再び火がつく実験をした記憶がある方も多いでしょう。火葬炉で出る煙も同じで、未燃焼のガスや微粒子が空気中に残ったものです。

二次燃焼バーナーはこの燃え残りを再び燃やす仕組みです。アウトドア好きな方ならイメージしやすいと思いますが、ウッドストーブなどで使われている二次燃焼機構と同じ原理で、高温でもう一度燃やして煙を抑えます。

ご家族への説明

火葬の前には、ご家族様から煙や匂いについて尋ねられることがあります。その際には「煙が出にくい炉を使用していますが、条件によっては出ることがあります」「匂いはほとんどしませんが、点火直後に毛が燃えるときの匂いが一瞬あります」ときちんと説明しています。

さらに経験上、体格や体型から見て「この子の場合は煙は出ない」と分かることもあります。そうした場合には自信を持って「出ません」とお伝えしています。実際に火葬を見守られたご家族様から「本当に煙が出なかった」と驚かれることもありました。

また中には「前の子を別の業者で火葬したときは煙がひどかったが、今回は煙が出なくて驚いた」と話されるご家族様もいらっしゃいます。以前の経験から「火葬は煙がつきもの」と思い込まれていたご家族様に、実際に煙が出ない火葬をご覧いただき、不安が安心に変わっていく。そうした場面に立ち会えることは、私にとっても大切なことだと感じています。

おわりに

火葬炉はブロワーによる強制排気で常に負圧に保たれ、匂いが炉内から漏れ出すことはありません。毛が燃えて発生する匂いも排気に乗って空へ逃げていきます。煙についても二次燃焼で抑えられていますが、条件によっては目に見える場合があります。

ご遺体の大きさや体脂肪の量によって煙の出やすさは変わります。また、食事内容によって脂の質が変化し、それが燃え方に影響している可能性もあります。小さな子ではまず出ることはなく、大きな子や脂肪が多い子では一時的に煙が見えることがあります。さらに、強風で煙が吹き降りてしまうときには外で匂いを感じることもあります。

煙や匂いは火葬に付きまとう現象ですが、仕組みを正しく理解していただければ不安は和らぎます。煙や匂いについて聞かれるご家族様には、きちんとお伝えして、確実に出ないと分かる場合には「出ません」と伝える。正直であることこそが、安心してお見送りいただくために最も大切なことだと考えています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です